明治座のど真ん中、まわし一丁の自担が美しくそこに立っていた:舞台『両国花錦闘士』

舞台『両国花錦闘士』の話をします。

※当たり前のようにネタバレをしますのでご注意ください。原作は買ったけど未読なのでふわっとした解釈で書いてます。

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明治座ののぼり。初めて目にしたとき泣くかと思った

明治座の0番・原嘉孝

まあ、はっきり言って、棚ぼたである。もともと主人公の兄役で出演予定だった舞台。自担があの明治座に立つというだけで嬉しかったのに、例の事件が起こり、なんやかんやあって主演になってしまった。なんてこった!いや、原のおたくは内心「うちのよしたか、ぶっちゃけ代役できるんじゃない?もしかしたらもしかしないかな……」と皆思ってたよたぶん(たぶんね)。でもおたくの勝手な願望だからな!言うだけタダだもんねワハハ!って笑ってたつもりだったことがマジで現実になったのだ。

少し個人的な話をすると夏の終わり頃からちょっとしたうつ状態で休んでいたのだけど*1、この発表があってから殊におたく活動に関してはすこぶる元気になってしまった。引きこもり女が遠征まで決めてしまうほどの吸引力。制作陣への信頼感が元からめちゃめちゃ厚いのも大きかったけど、やっぱ最高の男だ。これまでのジャニヲタ人生で今この原担時代が一番面白い(色々な意味で)。さまざまな事情もある中で、棚ぼたでも何でも主演・原嘉孝でGOサインが出され、よしたかさんがそれを引き受けた。それが全てだし、それを目撃することができた幸せは確かにわたしのものだ。

そんな訳で。明治座のど真ん中、まわし一丁の自担が美しくそこに立っていました。

主題歌が最高~知っていても半笑いになる、踊る裸の男たちの圧

この狂ったお祭り舞台を語るのに、デーモン閣下による主題歌『Naked Men 見ろ、裸の俺たちを!』は外せない。しかしこの曲が最高of最高であることはもう、どんなに言葉を尽くしても足りないのでとりあえず動画を貼ることにする。

観劇前、聴いただけでまわし一丁の男たちが歌って踊る、ハッピーでトンチキな光景が目に浮かんだ。そう、わたしは知っていたはずなのだ。”裸の男たちが踊る”ことを。*2


もう、そんなの全然ネタバレの域じゃなかった。知ってるのに、知ってたのになんだこの景色は……!?と動揺するのと同時に笑いが込み上げてきて無理。カラフルな照明に次から次へと展開するフォーメーションと相撲の所作が取り入れられた振り付け、肩を組んでニッコニコの力士たち……開幕の時点で”勝ち”。もうね~これは絶対客席みんなで狂うのが一番楽しいやつなので、残りのチケット全部売り切れてくれ……頼むから……全人類観てくんないかな……。

橋谷(大原櫻子)の存在

2018年のメタルマクベスdisc2を観て以来、大原櫻子ちゃんが好きなことは分かっていた。ついでによしたかさんと仲良しなことも知ってるので余計に好き。一緒になって勝手に櫻子と呼んでいる(ごめんなさい)。そんな櫻子演じる相撲嫌いの相撲記者・橋谷ちゃんが昇龍と出会い、彼を追って相撲界を駆けずり回るうちに、相撲という催しの意味や昇龍の追い求める相撲の「美しさ」に触れていく。その目線はわたしたち観客の案内人の役割を果たしているんだなあ。コミカルでかわいくって歌声には迫力もあって、あの小さい身体でお立ち台で熱唱する橋谷ちゃん最高だった。
「あなたはなぜここにいる?」と問いかけ続ける橋谷ちゃんに昇龍は「お前は何を美しいと思う?」と問いで返す、このふたりの関係性もとても良かったな~~と思う。あとなんてったってここが好きです。私的よしたかさん史上最高のリアコしぐさ。



美しい男を求める桜子(りょう)の目線と「見世物」

昇龍の美しさに目をつけ歪んだ愛情を向ける桜子。これまで女は男に消費されてきた、女が男の裸を追い求めて何が悪い、という桜子の在り方は、男性アイドルや俳優たちの造り上げた偶像を愛で、楽しみを見出だす我々おたくの目線と重なっていてどきりとする。だってまさに今、わたしは好きな男の裸を双眼鏡で眺めていたわけですし!?!?


「俺は見世物じゃない」という昇龍に対しあっけらかんと「力士は見世物よ」と返し、その上でシンプルに「桜子は美しくて強い男が好き」「勝ち上がりなさい」と畳み掛ける桜子、勝つために己の信念を曲げて太るべきか悩んで燻っていたこの時の昇龍にとっては"自分の信じる力士としての姿勢"を唯一肯定して賛美してくれた存在なんですよね。だから心を許して取り込まれそうになってしまったんだろうなあ。いや~冷静に考えて自担がりょうを抱いたのやばくない??(ちがう)

後半、桜子は昇龍を繋ぎ止めたいがために昇龍の兄・清史(木村了)(了くんも最高だったな……!元々居なかったなんて信じられない とぅら~~~い)と関係を持って嫉妬させたり、取組の結果で昇龍の気持ちを量ろうとしたりする訳だけど、雪乃童(大鶴佐助)とのやりとりで吹っ切れた昇龍の勝利を結局喜んでいるんですよね。あそこが"力士・昇龍のファン"としての愛情へと少し桜子の感情の質が変わった瞬間なのかなと思ったりした。

最後の取組と原嘉孝が”昇龍”であること

昇龍がしがらみから解放され、ライバル・雪乃童とふたたび対する最後の取組。わたしたちは橋谷ちゃんの台詞で昇龍の美学の真髄に辿り着くことになる。

「あなたは神さまに選ばれたいのね」

神に捧げる「神事」としての相撲の美しさがそこからの取組の場面にはぎゅうぎゅうに詰まっていた。静まり返った舞台上も客席もまるごと国技館になったみたいで。

「ああ見てろ桜子、見てろ女たち女神たち。もっと強くなってやる、もっと美しくなってやる」
「夜も光るほど艶やかになって、お前らを眠れなくさせてやる」

昇龍の最後の台詞は、相撲を、男の身体を「見世物」として消費する者たちを否定して振り切るものではなく、そんな目線もすべて取り込んでもっと高みへ上ってやる、というこの上なく強くて美しいもので。同時に、まさにその時双眼鏡を構え固唾を呑んで舞台演劇という「見世物」の結末を見守っているわたしたちのことを、まとめて掬い上げてくれるものでもある。何度でも言うけどこの、物語中と現実の「見世物と観客」の構図が見事にリンクしていることに気づく瞬間、本っっっ当にゾクゾクする!!!!天才演出!!!!!!!!!

それと同時に、この台詞を”原嘉孝”本人に重ねずにはいられなかった。オーディションで新感線の大型作品の役をもぎ取ってきたことから始まり、ユニットとしても何度も逆境を乗り越えながら演劇の世界で成長し続けてきたこと。去年のユニットでの公演で「皆の応援、100倍にして返してやっからよ!!」と高らかに宣言するアイドル原嘉孝がギラギラ輝いていたこと。自分の知っているこれまでのよしたかさんの姿が頭を駆け巡って、今目の前にいる”この昇龍”を原嘉孝が演じていることには意味がある、と心から思えたとき、もうたまらない気持ちだった。元々はよしたかさんの役じゃなかったのにね。本当にすごい男だよあなたは……。あの神々しい立ち姿、一生忘れたくない。女神さま降りてきてたよ、きっと。

まあ、次の瞬間にはカテコの『Naked Men~』で頭パーーン!!!となるんですけどね!カラッと笑って楽しかったーー!で終わるところも大好きだ!!!!


残りの明治座公演、そして新歌舞伎座博多座も、どうか最後まで駆け抜けてほしい。この最高にトンチキでハッピーな神事が神さまに届きますように。

*1:原くんの所属するユニットが解散するという事変にも一大事なのにさほど感情が働いてなかった

*2:マツケンサンバ」:この舞台のお祭りっぷりがマツケンサンバみたいだった、との口コミが観劇前既に広がっており耳にしていた